わたしたちのこと 会社の現場から

滋賀で一番小さなまちから、京友禅の技を発信する。

双葉工芸の捺染

横浜、金沢など全国にある捺染なっせん(※1)産地の一つ、京都。

その京友禅の歴史と技を受け継ぐ捺染工場が滋賀県で最も小さなまち、豊郷町にあります。

はん(※2)の制作、捺染、蒸し、洗い、仕上げなどいくつもの工程を経て完成する捺染。

一人前になるまでに長い時間がかかる職人の世界で奮闘する髙橋さんがこの業界に携わり約20年。

まだまだ半人前と謙遜する髙橋さんに、染めに対するこだわりを話していただきました。

※1.捺染なっせん・・・布地に模様を施すこと。プリント。

※2.はん・・・捺染するときに染料を生地に移す仲立ちとなるもの。1つの柄を捺染するとき、1色につき1版使用する。

昭和48年創業から続く捺染工場との出会い

双葉工芸 代表取締役 髙橋 富英さん
(株)双葉工芸 代表取締役 髙橋 富英さん
今回は株式会社ニシザキ代表取締役、西崎匠がインタビューさせて頂きました!
西崎

西崎:実は御社との取引は2〜3年ほど前の金融機関のビジネスマッチングフェアでお話しさせていただいたのがきっかけでしたね。
ニシザキではずっとプリント生地は機械で染めていましたが、どうしてもロットが発生するので、積極的に新柄を依頼するという事ができなかったんです。
いくつかの柄を小ロットで捺染していただける染工場をずっと探していたところ、こんなに近くにあったとは驚きでした!

高橋富英さん(以下:高橋。敬称略):そうですね。ウチが寝装品向けのプリントはあまりしていませんでしたから。着物や浴衣などアパレル向け加工をメインに取り扱っていました。

西崎:同じ繊維業界でもニシザキではベビー布団など寝装品がメインですし、取り扱う商品が異なると驚くほど接点はないですよね。

京友禅の染め加工からベビー用寝具まで

高橋:父親が昭和48年に創業して以来、着物向けの生地の捺染がメインでした。ここは京都に近いこともあって、京友禅の染め加工として多い時は月間で約50,000mも捺染していたんですよ。
今でも着物や浴衣などが多いですが、近年では服地や雑貨向けの捺染の割合が増えています。ニシザキさんから依頼の捺染もベビー用の布団カバーや小物類だと聞いています。

西崎:そうです。ベビー向けなので、安全性などを考えるといろいろと規制もあるのですが。。

高橋:もちろん品質には気をつけており、染色の堅牢度けんろうど(※3)などは基準値を十分クリアしています。ベビー向けで特に気にされるホルマリン(※4)も0.01以下ですから、安心してご使用いただけますよ。

※3.堅牢度けんろうど・・・丈夫さのことで、生地の堅牢度といえば染色の「色落ちのしにくさ」などを判定するもの。

※4.ホルマリン・・・衣類の縮みやシワを抑制する加工で使用される化学物質。厚労省の「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」で定められており、ベビー用品はとりわけ厳しい規制がされている。

塗り絵のような手捺染に隠された奥深さ

手捺染職人としてのやりがい

捺染工場を訪れる機会がない限り、染めの作業中のイメージはわきづらいですよね。

今回は工場内も見せて頂きました。版をずらして次々と捺染作業されているところを拝見すると見入ってしまいます。
高橋さんがこのお仕事をする上でのやりがいを伺いました。

高橋:どの仕事にも共通すると思いますが、やはり達成感でしょうね。1色ずつ版を重ねていく手捺染では、プリントする生地を仕上げるまでに職人が数十回、色数が多ければそれこそ数百回の捺染を繰り返します。それからもまだ後処理の工程があるわけですが。

柄がズレたり、色がぶれたりしないように細心の注意を払ってリクエスト通りに仕上がった時の達成感は何とも言えません。

西崎:数百回とは気が遠くなりそう・・・。
1つの色ごとに版を変えるわけですが、模様が細かく入り組んだような柄だったりすると特に難しそうですね。

高橋:ええ、でも逆にやりがいがありますよ(笑)
1色だけ染めてもどのような柄になるか想像するのは難しいですが、その上に次々と色が加わって柄が出来上がっていく様子は、たくさんの色を塗っていく塗り絵に近いものがあるのかな。誰でも子どもの頃に塗り絵で遊んだことがあると思いますが、それに似た感覚でワクワクすると言うか。

西崎:塗り絵ですか、なるほど…!確かに少しずつ模様が出来上がっていく様子は楽しそう。

高橋:あと、最近はカジュアル衣料や雑貨向けの捺染が多く、実はネットやSNSでも自分たちが染めた生地から仕立てられた製品を目にする機会が増えています。使っていただいていると褒められたようで嬉しいですね。

西崎:それ分かります!製造側としては、やはり自分たちが携わった商品を使っていただいているのを拝見すると嬉しくなりますね。
逆に他社が作った布団でも興味深いものを見ると、生地の組成や中わたの素材、キルティングや縫製などの仕様を確認してしまいます。

完全に職業病です。

高橋:とりあえず「生地の種類は何か」「機械での染めなのか手での染めなのか」「その配色は何をイメージしたものなのか」を考えます。柄の合い方や色の組み合わせなど参考になることもたくさんありますから。あと、捺染するときの注意点として、柄のずれやかすれなどの不具合がないかも見てしまいますね。

アナログとデジタル

「手捺染(てなっせん)」というアナログであたたかみのある響き。

デジタルとはまた違う良さとはどんなものなのか?伺いました。

手捺染の良さとこだわり

西崎:私にとって手捺染の良さはやはり約100mの小ロットから加工していただけるところです。ベビー布団のカバーやベビー向け雑貨は使用する生地がそこまで多くないので。
その他、手捺染ならではの良さや、こだわりなどはありますか?

高橋:「お客様からいただいたデザインをご要望通りに表現する」ということが一番大事ですね。
デザインには着物向けの手描きのものやイラストなどデータで作られたものがあり、それぞれ線も空気感も異なります。
また、綿なのか、ポリエステルなのか、綿とポリエステルの混紡なのか、捺染する生地によって染料の発色具合も変わります
デザインや生地に合わせた道具を選択し、色出しや捺染するときの職人の手の力加減でご希望通り正確に表現することがこだわりでしょうね。

西崎:私たちは図案にカラーチップを付けて捺染をお願いするだけなのですが、その裏でたくさんのご苦労があるわけですね。深いなあ。。

高橋:最近はインクジェットプリンターが普及しているでしょう。インクジェットも小ロットからプリントできますよね。

西崎:そうですね、インクジェットは色数に制限がないので、数十mの小ロットで色数が多いデザインをプリントする時にお願いしています。

高橋:確かにインクジェットは色数に際限がないように思えますが、基本はシアン、マゼンタ、イエローの三原色のみの組み合わせで色を表現しています。例えば、黒も純粋な「黒」ではなく、三原色を組み合わせた「黒っぽい黒」になるわけです。
手捺染は染料そのものなので、インクジェットプリンターでのプリントとは同じ色でも深みが違ってきます。
もちろん、インクジェットを否定しているわけではないですよ。多色で細かなデザインは手捺染よりも鮮やかに表現できるので、デザインや用途に応じて染め方を選んでいただければと思います。

アナログとデジタル、それぞれの良さがあるんですね。
西崎

社会の変化と働き方。

高橋さんがお仕事を始められたのは約20年前。現在と比べると色々な変化があったはず。どんな変化があったのか伺ってみました。

高橋:そうですね。もちろんいろんな変化がありましたよ。一番大きいのは着物の需要の減少です。平成の30年間で市場規模は約5分の1に減少しましたから。

西崎:えっ、5分の1ですか!? やはり着物の需要が減ったからかな・・・?

高橋:はい。着物は買うものからレンタルするものに移り変わりました。この業界にとってはとてつもなく大きな変化ですね。
それに伴い捺染する商品も着物から服地や雑貨、水着などへも広がっていきました。
また、生地の素材も以前と比べると選択肢がかなり広がっています。起伏の激しいものや薄く繊細なものなど、染料の浸透具合や色付きの難しい生地が増えています。消費者の嗜好の多様性に対応した結果でしょうね。

西崎:確かに、ベビー用品でもここ10年間での嗜好の変化を大きく感じます。ライフスタイルの変化が大きいですね。

高橋:あと、職人の育成がすごく困難です。数年で仕事を完璧にするのは難しく、やはり技術習得には何十年とかかりますから。
見本の段階では納得のいく1色を作るために1日が終わったり、理想の線を描く為に道具を何度も調整することもあります。
本番の捺染で1版でもミスが起こると、その加工中の生地すべてがダメになることもあるので、決して気を抜かず、迅速に捺染することが要求されますので、事前準備から気を抜けません。

どの業界でも職人の育成は大変。そもそも捺染職人になろう!という人も現在は少ないそうで…。
西崎

高橋:ただ面白いこともありますよ。
美大や芸大で染色やデザイン専攻の学生さんや卒業生が自分のブランドを作りたくて、捺染を学びたいとの問い合わせがたまにあります。
今後はそのような方が増えて捺染の担い手になっていただくのもありなのかな、と考えています。
正社員という雇用形態に捉われずに仕事をするのも時代の流れの一つでしょう。デザイン感度の高い人と一緒に仕事をするとこちらも多くの学びがありますから。

ものづくりに携わる若い方々からの問い合わせ、嬉しいですね。
新しい視点や感度に触れられて、相乗効果でより良いものが生まれそうです!

いろいろと刺激のあるお話が聞けました。
本日はお忙しいところお時間いただきありがとうございました!
西崎

編集後記

着物向けの捺染からスタートし、服地や雑貨向けの捺染も手がける双葉工芸さん。着物の市場規模が5分の1に減少する過程で、時代に即した商品向けに販路を広げ、安定した受注を続けている。

伝統産業からの販路拡大には様々な葛藤があったと思われるが、その苦労を語ることなく未知の市場向けに技術を適応させ、新たな素材にも向き合っていくところに捺染職人としての矜持がある。
技術の継承も課題の一つであるが、あえて正社員としての職人に拘らず、意欲ある染色やデザイン経験者と協働する方法で解決しようとする試みもこれからの時代に即した働き方かもしれない。


デジタル隆盛の中、アナログな手捺染の良さを極めようとする髙橋社長。これからも頼りにしています。

株式会社ニシザキ 西崎 匠

■会社情報

株式会社双葉工芸
〒529-1171 滋賀県犬上郡豊郷町安食西1183

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nishizaki takumi

株式会社ニシザキ 取締役代表の3代目社長。 睡眠環境・寝具指導士。 コミュ力が高く明るい愛されキャラ。関西弁で話す。口癖は「知らんけど」。

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